相続時精算課税を利用したい!
相続時精算課税制度を選択すると、累計で2,500万円まで贈与税の負担なしに財産の贈与を受けることが可能です。
相続時精算課税を選択するためには、一定書類を添付した贈与税申告書を税務署に提出する必要があります。
ところが、定められた添付書類を集めることが非常に困難な場合も多いのです。どうすればよいのか悩まれる方も多いものと思われます。
そこで今回は、相続時精算課税を利用するための添付書類についてご案内します。税務の世界では申告等の手続きは非常に厳格に求められます。法令で定められた添付書類を漏らすことがないようよくご確認ください。
目次
1.【初回】相続時精算課税制度を選択する際の添付書類
1-1.相続時精算課税選択届出書
初めて相続時精算課税制度を選択しようとする場合には、相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告書に添付する必要があります。
相続時精算課税選択届出書は、国税庁のホームページから入手が可能です。
相続時精算課税選択届出書には以下の書類を添付することとされています。これらの添付書類については一つずつ説明をいたします。
- 受贈者や特定贈与者の戸籍の謄本又は抄本その他の書類
- 受贈者の戸籍の附票の写しその他の書類
- 特定贈与者の住民票の写しその他の書類
- 特定贈与者の戸籍の附票の写しその他の書類
<初めてとは?>
『初めて』とは、財産の贈与を受けた皆様にとっての初めてではなく、贈与者ごとに判断しますのでご注意ください。
相続時精算課税制度は、財産を贈与してくれた方ごとに選択をすることになります。
『祖母からの贈与は相続時精算課税制度を選択します』
『父親からの贈与は相続時精算課税制度を選択します』といった具合ですね。
5年前に祖母からの贈与について相続時精算課税制度を選択したとしても、父親からの贈与について初めて相続時精算課税制度を選択する場合には、改めて父親からの贈与について相続時精算課税選択届出書の提出が必要です。
60歳以上の両親や祖父母からの贈与について相続時精算課税制度は選択が可能ですので、相続時精算課税選択届出書を2回以上提出するということも決して珍しいことではありません。
相続時精算課税選択届出書を提出の都度、添付書類を集めて提出する必要があります。
相続時精算課税選択届出書の記載方法を確認したい方は、以下の記事をご参照ください。
『相続時精算課税選択届出書の作成方法・添付書類・注意点を徹底解説!』
1-2.受贈者や特定贈与者の戸籍の謄本又は抄本その他の書類
財産の贈与を受けた方の戸籍謄本を最低限添付する必要があります。贈与を受けた日以後に役所で取得したものを添付する必要がありますのでご注意ください。
以下の2点の内容を証明することが必要です。
- 贈与を受けた方の氏名、生年月日
- 贈与を受けた方が特定贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫であること
贈与した方の子供や孫であることを1つの戸籍謄本で示すことができるかが問題となります。
贈与を受けた方の戸籍謄本のみでは説明ができない場合には、別途書類を準備する必要があります。贈与を受けた方が子供か孫なのか?等の事情によって異なり
氏名や生年月日は贈与を受けた方の戸籍謄本で明らかにすることが可能ですので、別途書類の準備を考える必要はありません。
戸籍謄本は本籍地のある役所や行政サービスセンター等で取得することが可能です。本籍が遠方にある場合には、郵送で取得をすることをお勧めします。詳しくは本籍地のある役所にご確認ください。
1-2-1.子供が適用する場合
子供が父や母からの贈与について相続時精算課税制度を適用する場合には、財産の贈与を受けた方の戸籍謄本のみで大丈夫です。
贈与をした方と贈与を受けた方が同じ戸籍にいる場合、財産の贈与を受けた方の戸籍謄本を取得すれば推定相続人であることが一目瞭然です。結婚をしたことがない子供の場合には両親と同じ戸籍の場合がほとんどかと思います。
結婚等によって両親の戸籍から除籍されている方の場合であっても、戸籍謄本又は抄本があれば十分です。戸籍抄本とは戸籍の一部のみを証明したものです。自分の戸籍の欄には父や母の記載がありますので、戸籍抄本でも問題ありません。
1-2-2.孫が適用する場合
孫が祖父母からの贈与について相続時精算課税制度を適用するためには注意が必要です。戸籍謄本から贈与者である祖父母と孫の関係がわかるかどうか確認をしてみてください。
一度も結婚したことがない孫の場合、孫の戸籍謄本のみで関係を示すことが可能と思われます。親の戸籍の欄に親の父や母(=贈与者である祖父母)の記載があるためです。
祖父母の養子となっている孫の場合にも孫の戸籍謄本のみで関係性を示すことが可能ですので、別途書類は不要です。
結婚をして親の戸籍から抜けている孫の場合には、贈与を受けた孫の戸籍謄本には祖父母の名前の記載がありません。贈与者である祖父母の戸籍謄本を添付する必要があります。
贈与者である祖父母の戸籍謄本を取得する際には、改製原戸籍を取得することをお勧めします。祖父母の全部事項証明書(現在の戸籍謄本)には結婚して除籍した子供の欄が削除されている可能性が高いからです。
祖父母の戸籍謄本も贈与後に取得したものを添付する必要があります。
改製原戸籍は贈与者である祖父母の本籍地の役所で取得することが可能です。
1-3.受贈者の戸籍の附票の写しその他の書類
この書類を準備することが一番大変です!しっかりと確認してください。
1-3-1.戸籍の附票の取得
財産の贈与を受けた方の戸籍の附票をまずは取得してみてください。贈与を受けた日以後に役所で取得したものを添付する必要がありますのでご注意ください。
戸籍の附票の写しはコピーのことではありません。役所で発行してもらった原本を提出してください。
財産の贈与を受けた方が20歳に達した時(又は平成15年1月1日)以後の住所が漏れなく記載されていればOKですが、なかなか簡単にいかないことが多いです。
20代前半の方の場合や住所の移転が何十年もない方の場合にはそれほど困ることはないと思いますが、それ以上の年齢で住所が転々としている方の場合には過去5年分ほどの住所移転の記録しか取得できないことが多いのではないかと思います。
戸籍の附票は、本籍地の役所や行政サービスセンター等で取得が可能です。戸籍謄本と一緒に取得することをお勧めします。
1-3-2.改製原附票の取得
平成15年1月1日以後の住所を戸籍の附票で確認することができなかった場合には、別途書類が必要です。
まずは、過去の戸籍の附票(改製原附票)を取得できるかどうかを本籍地の役所に確認をしてみてください。
本籍地の自治体ごとに保存状況が異なりますので、取得ができない市区町村も存在します。
過去の戸籍の附票を取得して平成15年1月1日以後の住所が証明できればいいのですが、改製原附票が取得できない場合や改製原附票に平成15年1月1日以後の住所が漏れなく記載がない場合には、さらに書類を準備する必要があります。
1-3-3.自己証明書の作成
最終手段は、自分で作成する自己証明書です。
相続時精算課税制度を適用するためには、20歳に達した時点以降の住所又は平成15年1月1日以後の住所を証する書類を添付する必要があります。
平成15年1月1日以後の住所が戸籍の附票や改製原附票で証明できない場合には、自分で以下のような証明書を作成して提出をするようにしてください。
受贈者の平成15年1月1日以後の住所を証する書類
〇年〇月〇日
受贈者 贈与太郎 印
- 受贈者 贈与太郎の戸籍の附票には、平成◯年◯月◯日以後の住所の記載しかありません。
- 平成15年1月1日から平成◯年◯月◯日までの住所は以下の通りで相違ありません。
- 記
- 平成15年1月1日から平成×年×月×日
- 東京都〇〇区〇〇1−2−3
- 平成×年×月×日から平成◯年◯月◯日
- ◯◯県〇〇市〇〇4−5−6
- 以上
過去の住所を忘れている方も少なくありません。年賀状等が残っていれば送られてきた年賀状の宛先から住所を確認すると良いのではないでしょうか。
住所を正確に覚えていなくても、地図等で場所を特定できれば住所を調べることは容易と思われます。
住所移転の日は記憶等を頼りに『断定』するしかありません。購入した不動産であれば登記簿謄本で売買日を確認することはできますね。過去の賃貸借契約書が残っていれば住み始めることが可能な日も確認できます。
その当時の郵便物等で過去の住所を示すことは可能ですが、自己証明書を作成することをおすすめします。
そもそも過去の住所を示す書類が残っていないことがほとんどだと思いますし、郵便物等が1点あっても平成15年1月1日以後の継続的な住所を証明することは不可能です。自己証明書の作成・提出をするしかないと考えます。
1-4.特定贈与者の住民票の写しその他の書類
贈与をした方の住民票の写しを取得すれば大丈夫です。贈与を受けた日以後に役所で取得したものを添付する必要がありますのでご注意ください。
特定贈与者の住所と氏名を証明する必要があります。
住民票の写しを取得すればこれらは証明できるはずですので、他の書類を準備する必要はありません。よかったですね!
他の書類と同様に、原本の提出をするようにしてください。
住民票の『写し』とはコピーのことではありませんのでご注意ください。住民票は役所に備え置かれているもので、その写しを証明書として発行してもらったことになります。
1-5.特定贈与者の戸籍の附票の写しその他の書類
贈与をした方の戸籍の附票をまずは取得してみてください。贈与を受けた日以後に役所で取得したものを添付する必要がありますのでご注意ください。
平成15年1月1日以後(又は贈与者が60歳に達した時点以後)の住所を証明する必要があります。
財産の贈与を受けた方と同様の事実を証明する必要があるのですが、こちらの方が簡単な場合が多いです。
一般的に、贈与を受けた若い方と比べて贈与をした方が住所を転々としていることが少ないからです。
戸籍の附票で平成15年1月1日以後の住所履歴を示すことができない場合には、改製原附票の取得をする必要があります。それでもわからない場合には自己申告書の作成が必要です。
詳しくは、『1-3.受贈者の戸籍の附票の写しその他の書類』でご説明していますのでご確認ください。
1-6.財産評価に関する書類
相続時精算課税制度を適用して贈与を受けた財産が土地や有価証券の場合には、評価明細書を贈与税申告書に添付する必要があります。
贈与された財産が現金や預金の場合には、通帳のコピーを添付する必要はありません。
土地の評価明細書は国税庁ホームページで入手が可能です。
土地の評価明細書の作成方法を具体的事例で確認したい方は、以下の記事をご参照ください。
『【自分でかんたん!】土地の評価明細書を作成して申告の要否を検討!』
上場株式の評価明細書は国税庁ホームページで入手が可能です。
上場株式の評価明細書の作成方法を知りたい方は、以下の記事で上場株式の評価方法をご参照ください。
『上場株式の相続税評価と調べ方を徹底解説【評価明細書の記載例付き】』
2.2年目以後に申告する際の添付書類
相続時精算課税を一度選択すると取り消しをすることができません。
翌年以後に特定贈与者から110万円以下の贈与を受けた場合であっても贈与税の申告が必要です。
贈与税の申告をしない場合には、累計で2,500万円以下であっても一律で20%の贈与税が課税されることとなりますのでご注意ください。加算税や延滞税等のペナルティもありますので、必ず贈与税申告をするようにしてください。
2年目以後の贈与税申告では、初回のような添付書類は不要です。
贈与された財産が土地や上場株式の場合には『1-6.財産評価に関する書類』でご案内のとおり評価明細書の添付が必要です。
3.相続時精算課税制度の注意点
先にもご案内しましたが、相続時精算課税制度を一度選択すると取り消しをすることができません。
制度のメリットだけでなくデメリットも理解した上で相続時精算課税制度を選択するようにしてください。
一般的に相続時精算課税制度には、以下のようなデメリットがあります。
- 基本的に相続税の節税効果はない
- 次回以後の贈与もすべて相続税の対象
- 他の相続人に贈与を受けた事実がバレる
- 他の相続人の相続税負担が重くなる
- 時価が下がっても贈与時の価額で課税
- 少額の贈与でも贈与税申告が必要
- 税制改正によって不利益が出る可能性
相続時精算課税制度を適用した後には110万円の暦年贈与が使えなくなってしまうことはしっかりと理解しておいてください。
相続時精算課税制度のデメリットについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
『【後悔しないために】相続時精算課税制度7つのデメリットをご紹介!』
4.まとめ
相続時精算課税の添付書類についてご案内しました。
贈与者ごとに最初に相続時精算課税制度を選択する際には、相続時精算課税選択届出書の提出が必要です。
相続時精算課税選択届出書には、戸籍謄本や住民票の写し、戸籍の附票の写し等の書類を添付する必要があります。証明すべき事項をしっかりと確認して不足がある場合には、別途書類を準備するようにしてください。
特に平成15年1月1日以後の住所の証明は役所で取得した戸籍の附票のみでは困難なことが多いです。自己証明書を作成して漏れがないようにしてください。
2年目以後には特に添付書類は不要です。相続時精算課税制度にはメリットだけでなくデメリットも多く存在しますので、しっかりと確認をして納得をした上で相続時精算課税制度を選択するようにしてください。