債務控除を漏らしてしまうと余計な相続税を支払う結果になってしまいます。
せっかく相続財産から控除することができる債務があるのに、控除しないのではもったいないですよね。
そこで今回は、債務控除のうち債務を中心にご説明いたします。控除できる債務のルールを解説した後、控除できる債務とできない債務を具体的項目で確認してください。
相続税計算上債務控除できない場合もご紹介いたしますので該当する方は参考にしてください。
控除できる債務をしっかりと理解して相続税の負担を少しでも軽減してくださいね。
目次
1. 債務控除とは
債務控除とは、相続税の対象となる財産から債務や葬式費用を控除することをいいます。
相続税は亡くなった方の財産から債務や葬式費用を控除した純財産に対して課税されます。
不動産や預金など10億円の財産があった場合でも、銀行の借入金が8億円あれば、相続税がかかってくるのは純財産である2億円部分だけになるのです。
相続税の計算上控除することができる債務には一定のルールがあります。そのルールが分らないと、控除することができる債務と控除することができない債務を判断することは困難です。
2. 相続財産から控除することができる債務の条件
相続財産から控除することができる債務には大きく3つのルールがあります。
- 亡くなった方の債務であること
- 相続開始の時点で存在していること
- 確実と認められる債務に限ること
それでは一つずつ確認していきましょう。
2-1. 亡くなった方の債務であること
相続財産から控除することができる債務は、亡くなった方の債務に限ります。
子供が借金をしていたような場合で亡くなった方が毎月返済をしていたとしても、その債務は亡くなった方の債務ではありませんので相続財産からは控除することができません。
また、遺産分割が決まるまでの間にかかった相続財産の維持管理費用については、相続人が負担すべき債務ですので相続税計算上は控除することができません。
<相続財産の維持管理費用とは>
相続財産の維持管理費用とは、亡くなった時から遺産分割までの間に相続財産の維持管理のためにかかる諸費用のことをいいます。不動産の場合には固定資産税や火災保険、修繕費などが該当します。
遺産分割が揉めてしまい何年もかかっているような場合をイメージしてみてください。相続財産を維持するためにかかるこれらの費用は誰が負担するのでしょうか?
民法では相続財産に関する費用は相続財産の中から負担することとされています。
相続税の債務控除では、相続後に発生したこれらの費用は相続人が負担すべき費用として相続財産から控除することが認められていません。
固定資産税であっても相続時に支払うべきことが確定していたものについては亡くなった方の債務として控除することが可能です。
2-2. 相続開始の時点で存在していること
相続税の対象となる財産や債務はすべて相続開始の際の現況によることとされています。
そのため亡くなった方に関連して支出したものであっても、亡くなった時点で債務が確定していないものは原則として控除することができないのです。
亡くなった方の死因を確認するための解剖費用は亡くなった時点で確定している債務ではありませんので控除することはできません。
対して控除可能な分かりやすい例として病院の入院費用があります。
病院に入院中に亡くなった場合、亡くなった時点で病院に対して入院費用を支払うべきことは確定しています。相続人の方が相続後に入院費用を支払ったような場合には、支払った方の相続財産から入院費用を控除することができるのです。
亡くなるまでの入院費用は、通常亡くなった後に病院から請求されることとなります。つまり、亡くなった時点で支払う義務が確定していれば必ずしも金額が確定していなくてもよいのです。
2-3. 確実と認められる債務に限ること
亡くなった方の債務のうち相続人が弁済すべきことが確実な債務でないと相続財産から控除することができません。
保証債務*は原則として控除することができません。保証人が主たる債務者として弁済すべきことが確実ではないからです。
【*保証債務とは】
亡くなった方が誰かの借金の保証人になっていたような場合、保証人として借主に代わって債務を弁済する義務のことをいいます。保証債務は相続の対象となります。亡くなった方の『保証人としての義務』を相続人が相続によって引き継ぐことになるのです。
不動産等を夫婦共有で購入した場合には借入金を夫婦の連帯債務としていることもあるでしょう。このような連帯債務については原則として亡くなった方が負担すべき金額のみを控除することとされています。
また、時効が成立した債務については弁済すべきことが確実な債務ではありませんので、控除することができません。
<保証債務や連帯債務を控除できる場合もある>
保証債務や連帯保証債務については、原則的な取り扱いをご説明いたしました。
相続時点で主たる債務者や連帯債務者が弁済不能確実な状態にある債務で、亡くなった方が負担しなければならないと認められるものについては相続財産から控除可能な場合もあります。
特例的な取り扱いとなるため、該当するような債務がある場合には相続税申告を依頼した税理士にご相談ください。
3. 具体的項目で確認 控除可能な債務
債務控除の3つのルールをご説明してきました。控除可能な債務で実務上よく出てくるものを具体的にまとめました。金額が大きく重要性の高いものから順番にご説明しますので、漏れがないか確認をしてみてください。
3-1. 銀行借入金、その他の借入金
亡くなった方に銀行借入があった場合やその他の借入金がある場合には、借入金を承継した方の相続財産から控除することができます。
ただし、住宅ローンを団体信用生命保険付きで契約していたような場合、相続人が住宅ローンを弁済することが確実とはいえませんので、そのような場合には亡くなる直前に債務残高があったとしても相続税計算上は控除することができません。
3-2. 未払医療費
亡くなった方が生前に受けた入院代などの医療費で亡くなった後に相続人が支払ったものがある場合には、負担した方の相続財産から控除することができます。
亡くなった方やご家族の方の確定申告で医療費控除をする場合には注意が必要です。
医療費の領収書を所得税の確定申告書で全て税務署に提出してしまった結果、相続税から控除することができる未払医療費を確認できなくなってしまうことがあります。
そのような場合には領収書の再発行をお願いすれば良いのですが面倒臭いですよね。
相続税から控除することができる医療費の領収書についてはコピーを取っておくことをお勧めします。
3-3. 所得税
亡くなった方の所得税は債務として負担した方の相続財産から控除可能です。
1月1日から亡くなるまでの間に所得税がかかる場合には、亡くなった日から4月以内に相続人が確定申告書を税務署に提出して所得税を納付する必要があります。
亡くなった場合の確定申告は相続人共同で作成する義務になっているのですが、所得税は亡くなった方の所得をもとに計算される税金であり亡くなった方が本来負担すべきものだからです。
また、前年の確定申告書を提出した個人が所得税の納税前に亡くなったような場合も同様です。亡くなった方の所得税を代わりに納税した方の相続財産から控除することができます。
3-4. 固定資産税、住民税
固定資産税は、1月1日に不動産を所有する方に課税される税金です。
住民税は、1月1日に住所がある方に対して前年の所得を基に課税される税金です。
1月1日から納税通知が届くまでの間に亡くなった場合には、一年分の税金を控除することができるのです!
亡くなった時期によっては1年分以上の税金が控除できる場合もありますので、控除可能な税金を漏らさないようにしてください。
また共有不動産の固定資産税については、亡くなった方の持分に相当する税金のみが控除の対象となりますので注意してください。
3-5. 自動車税
自動車税は4月1日に自動車の所有者として登録している方に課税される税金です。
固定資産税・住民税と同様の考え方になります。亡くなった時期によって控除できるかどうかが決まるのです。
自動車を所有していた方が4月1日以後納税する前に亡くなった場合、納税した相続人の相続財産から控除することができます。
3-6. その他の未払金
亡くなる時点で確定していたその他の未払金がある場合にも原則として負担した相続人の相続財産から控除することができます。
具体的には以下のような場合が該当します。
・レストランで食事をしてクレジットカード決済した後、カード支払日前に亡くなった場合
・通販等で商品を購入後、支払いをする前に亡くなった場合
原則として『2. 相続財産から控除することができる債務の条件』でご説明した3つのルールで判断すれば大丈夫ですが、控除することができない債務や控除できない場合もあります。
『4. 控除することができない債務、控除できない場合』もしっかりと確認してくださいね。
4. 控除することができない債務、控除できない場合
債務控除についておおよそ説明をしてきたのですが、控除することができない債務や控除できない場合もありますので、該当しそうな項目がある場合には該当部分をしっかりと確認してください。
該当しそうな項目がない場合には、『5. 相続税の申告書の書き方(13表)』に進んでください。
4-1. 墓地や仏壇等の非課税財産を購入した際の未払金
墓地や仏壇等の未払金がある場合は要注意です。
墓地や仏壇等は相続税が非課税となっています。このような非課税財産を購入した際の未払金や分割代金は債務として相続財産から控除することはできません。
4-2. 相続人や包括受遺者以外の人が負担した場合
相続人・包括受遺者以外の人が亡くなった方の債務を負担した場合には相続財産から控除することができません。
相続人や包括受遺者以外の場合、そもそも亡くなった方の債務を引き継ぐ義務がないからです。
<相続人や包括受遺者以外の人とは>
相続人となる権利を持っている人であっても、相続を知ったのち3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄をした場合には相続人とはなりません。
包括受遺者とは遺言によって財産の全部又は一定の割合を取得することを指定された者のことをいいます。民法では、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するものとされています。
相続人や包括受遺者は相続開始とともに亡くなった方の一切の権利義務を引き継ぐことになります。
4-3. 亡くなった方・相続人ともに海外居住で一定の場合
家族で10年以上海外移住しているような場合には、相続財産から債務を控除することができません。
亡くなった方あるいは相続人どちらかが日本に住んでいたような場合には関係がないのですが、亡くなった方も相続人も10年以上日本に住所がないような場合には日本国内にある財産にしか相続税が課税されないからです。
海外にある財産を相続しても日本の相続税が課税されない一方で、海外の生活でかかった債務を日本国内にある相続財産から控除するのは不公平ですよね。
4-4. 保証債務
保証債務は原則として控除することができません。確実な債務ではありませんし、仮に相続後に相続人が保証債務を履行した場合であっても主たる債務者に求償することができるからです。
保証債務であっても相続時に主たる債務者が破産しているなど、亡くなった方が負担すべきことが確実といえるような場合には特例的に控除することができます。
相続後何年も経ったのちに主たる債務者が破産してしまったような場合であっても、相続時においては保証債務は確実な債務ではありませんので控除することはできません。
4-5. 相続手続きにかかる費用
相続手続きにかかる以下のような費用は控除することができません。
- 信託銀行や弁護士への遺言執行費用
- 戸籍謄本や住民票、印鑑証明の取得費用
- 不動産登記にかかる登録免許税や司法書士の報酬
- 相続税や税理士の相続税申告報酬
これらは亡くなった方の債務ではありませんし、相続時に確定していた債務でもありませんのでルール通り控除することはできません。
5. 相続税申告書の書き方(13表)
相続財産から控除することができる債務がある場合、相続税の申告書 第13表に債務の明細を記入しましょう。
それほど迷うことはないかと思います。国税庁が公表している申告書の書き方見本を参考にしてください。
負担する人と負担する金額がしっかりと書けていれば、他の項目はそれほど神経質になる必要はありません。表記が多少異なっていたとしてもそれが理由で控除できないということはないからです。
銀行借入金であれば、『種類』に”銀行借入金”と記入します。『細目』には借入金の内容を記載してください。毎月弁済している借入金の場合、”証書借入れ”で大丈夫です。
発生年月日には借入をした日付を、弁済期限には契約に基づく弁済日を記載します。はっきりわからない場合には空欄でも問題ありません。
未払い医療費であれば、『種類』に”未払金”、『細目』に”医療費”と記載してください。
所得税や固定資産税、住民税、自動車税については、『種類』に”公租公課”、『細目』にそれぞれの税目を記載してください。
6. まとめ
相続財産から控除することができる債務控除のうち債務についてご説明してきました。
亡くなった方の債務であること、相続の時点で存在すること、確実な債務であることの3つを満たせばほとんどの場合は控除可能です。墓地や仏壇など非課税財産の未払金は控除できません。相続人・包括受遺者でない場合には控除できませんので注意してください。
特に銀行借入がないような場合であっても、医療費や固定資産税、住民税については債務控除できる方が多いのではないでしょうか。
控除可能な債務は漏れなく控除して、損のない適正な相続税申告をするようにしてください。