控除できる葬式費用とは?
相続等によって財産を取得した人が負担した葬式費用は、相続税の計算上控除をすることが可能です。
控除可能な葬式費用には一定のルールがあるのです。
今回は相続税の計算上控除することができる葬式費用についてご案内いたします。控除可能な葬式費用を一通りご説明したのち、控除することができない費用と控除することができない場合をご紹介いたします。
相続税から控除可能な葬式費用を正しく理解して、控除できるものはもれなく控除するようにしてください。
目次
1. 控除可能な葬式費用
相続税についての細かなルールは、通達に記載があります。通達とは、国税庁長官から全国の国税局、税務署に対して法令解釈を示すものです。通達に基づいて税務行政が判断を行うこととなりますので、我々納税者側も通達を軽視することはできないのです。
控除可能な葬式費用については、相続税法基本通達13-4に以下のように記載があります。
13-4 法第13条第1項の規定により葬式費用として控除する金額は、次に掲げる金額の範囲内のものとする。(昭57直資2-177改正)
(1) 葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨又は遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うものにあっては、その両者の費用)
(2) 葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用
(3) (1)又は(2)に掲げるもののほか、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの
(4) 死体の捜索又は死体若しくは遺骨の運搬に要した費用
これだけ読んでも分かりづらいですよね。判断に迷いそうな部分を中心に一つずつ解説いたします。
1-1. 葬儀会社に支払った費用
一般的に行われる通夜や告別式にかかる費用は控除が可能です。
多くの場合には葬儀会社に葬儀を依頼していることと思います。葬儀会社に支払った費用は原則として控除が可能です。
香典返しにかかった費用は控除することができませんので、その部分を控除した金額を控除するようにしてください。
香典返しについて詳しくは『2-1. 香典返しの費用』で解説をしますので、そちらをご確認ください。
1-2. お寺に支払った費用
読経料や戒名料としてお寺に支払う費用も控除可能です。
お寺に限らず、神社や教会等にお願いをした場合にも当然に控除することが可能です。
これらについては領収書をもらえないこともありますが、領収書がない場合であっても問題はありません。領収書の添付が控除するための条件となっているわけではないからです。
実際に支払った金額を忘れないようにメモをしておいてください。お車代などで別途渡した金額も控除可能ですので、支払ったのであれば忘れずに控除するようにしてください。
1-3. 葬儀に伴う飲食代として支払った費用
通夜振る舞い等の飲食のために支払った費用も控除することが可能です。
これら葬儀に伴う飲食にかかる費用は葬儀会社にまとめて支払っていることが多いかと思いますが、寿司屋等で出前を頼んだ場合やビール等を酒屋に頼んだ場合等も控除することができますのでご安心ください。
1-4. 心づけ、手伝いのお礼として支払った費用
葬儀の手伝いをしてくれた方への心づけ、謝礼等も控除することが可能です。
亡くなった方の職業や財産等に照らし『相当程度と認められるものに要した費用』と通達には定めてありますが、それほど気にする必要はありません。
相続税を減らす目的で『葬儀手伝いの謝礼ということで』孫に数百万円支払ったとしても、それは当然控除できません。
一般常識で判断をするようにしてください。
これらも領収書がない支出ですので、控除をするのを忘れないようにしてください。
税理士に相続税申告をお願いする場合であっても、支払った事実を忘れずに税理士に伝えるようにしてください。
1-5. 供花、花輪として支払った費用
祭壇や斎場に飾る供花等の費用も当然に控除可能です。
これらについては控除する人に注意してください。相続等によって財産を取得した方が実際に負担しているものであれば、請求書や領収書のあて名は気にしなくても大丈夫です。
相続人でない孫の名前で花を出していたとしても、その費用を負担したのが相続人である子供であるのであれば控除することが可能です。ご安心ください。
2. 葬式費用として控除できない費用
控除できない葬式費用については相続税法基本通達13-5に以下のように記載されています。
13-5 次に掲げるような費用は、葬式費用として取り扱わないものとする。(昭和57直資2-177改正)
(1) 香典返戻費用
(2) 墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料
(3) 法会に要する費用
(4) 医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用
控除できない費用については実際の事例をご紹介しますので、参考にしてください。
2-1. 香典返しの費用は控除できない
香典返しの費用は控除することができません。
葬儀に際して直接必要となる費用ではなく、社交上の必要により支出されるものであるからです。
返礼品の購入費用やあいさつ状の印刷代は控除可能な葬式費用ではないとされた事例もあります。(平13-03-09 東裁(諸)平12第99号)
受け取ったお香典には税金はかかりませんので、ご安心ください。
香典の有無に限らず全員にお渡しする会葬御礼などは葬儀にかかる費用として控除が可能となります。
2-2. 墓碑、墓地、仏壇、仏具などの費用は控除できない
お墓や仏壇などにかかった費用は控除することができません。
相続税は原則として亡くなった時点の財産債務を対象としていますので、亡くなった後にこれらの費用を支払ったとしても相続税は減らないのです。葬式費用は特別に控除が可能なのだとご理解ください。
お墓や仏壇などは相続税が非課税となる財産ですので、生前にこれらの購入手続きをしていたとしてもこれらの未払金は控除することができませんのでご注意ください。
相続税の計算上、控除することができる債務については以下の記事をご参照ください。
【損をしない!】債務控除を漏れなく申告し相続税負担を軽減する方法
2-3. 法事・法要の費用は控除できない
初七日や四十九日、一周忌などの法事・法要の費用は控除することができません。
告別式当日に食事会をすることがあるかと思います。告別式当日に火葬場等で行われる食事会であれば葬式費用の一部といえますので控除が可能です。
個別の事情や地域ごとの特性がありますので、判断に迷う場合には必ず税理士に相談をするようにしてください。控除可能なものであってもその存在を聞いていなければ税理士が判断することができないからです。
実際の国税不服審判所の裁決事例から2つ事例をご紹介します。国税不服審判所とは税務署の課税処分に納得ができない納税者が裁判の前に税務署と争うための公的機関のことです。
<事例1>
告別式当日の食事会が、『葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの』に該当するか否かが争われた事例があります。(平10-06-12 仙裁(諸)平9第54号)
告別式と同日に行なっていたとしても場所を変え葬儀の香典とは別途ご霊前を受け取って行われた食事会は葬式に伴う費用ではないと判断をされました。
<事例2>
死亡後49日目に行われた『偲ぶ会』の費用が控除可能な葬式費用に該当するとされた事例もあります。(平26-01-10 大裁(諸)平25第36号)
死後すぐに家族葬が行われており、49日目に行われた偲ぶ会は地元で国会議員をはじめ200名ほどが参加したもので実質的に葬儀を2回行なったと判断されたのです。
相続に関するルールの判断は容易ではありません。数字などの客観的に判断できるようなものではなく、実質判断とされることが多いからです。法令や通達だけではなく、過去の裁決事例や裁判事例等を参考に税理士は判断を行うのです。
3. まとめ
控除可能な葬式費用をご理解いただけたでしょうか。
領収書がない支出であっても葬儀に直接必要なものであれば控除が可能です。
相続税は原則として亡くなった時点の財産と債務を対象としています。『葬式費用』に限って特別に相続財産から控除可能と扱われているのです。過度な拡大解釈は税務署とトラブルになる原因となりますのでご注意ください。
お葬式については個別の事情や地域ごとの特性もありますので、判断に迷う場合には税理士に相談をするようにしてください。
控除可能となる葬式費用を漏れなく控除して、相続税の負担を少しでも軽減してくださいね。